本屋に行くと多くのビジネス本が陳列されています。
その中で、目につくのは、「●●戦略」というビジネス本。

自社の経営を継続・発展させるため、自分の仕事に成果を出すため、等、
色々な理由で、多くの人が手にされているのではないでしょうか。
特に、上手くいかない状況に追いやられると、何かいい方法はないかと、
ついつい、手に取ってしまいがちです。
私もその一人で、これまで多くのビジネス本を手にしました。

読んでみると、「なるほど~」、「その理屈なら上手くいくな~」と思える内容が記載されています。
初めて「戦略」に触れる人にとっては、非常に新鮮であり、勉強になると思います。

しかし、この種のビジネス本は、「戦略」についての大枠を説明したものが多く、また、同じ理論を著者によって表現を置き換えて説明したにすぎないものが少なくありません。

実際のビジネスの場においては、戦略から戦術に落とし込み、その戦術をさらに落とし込んで実行しなければなりません。しかし、ビジネス本では、この戦術への落とし込み、戦術からのさらなる落とし込みについて説明したものは非常に少ないように思います。

それはなぜでしょうか。

この種のビジネス本は、学者や研究者が分析・研究から導き出した理論を説明したものであったり、大手コンサルティング会社が分析した結果をまとめたものであったりしたものであり、成功事例を挙げていたとしても、その事例における前提条件が判った状態で分析した結果を説明したものだからです。
すなわち、ビジネス本にある戦略は、その戦略で得られる大きな成果(多くに事例による成果や仮定の成果)から上流側に向かって論理的に導き出された仮説であり、戦略の目的(成果)よりも下流側に位置する戦術にまで触れることができないからです。

また、研究者等の分析結果から導き出された戦略は、仮説に基づく論理展開で導出したものであるため、人的要素、利害関係等の種々の条件が絡み合った現実(事実)と一致していないこともあります。例えば、ホンダが米国でスーパーカブを投入して成功した事実(当事者の証言)と、コンサルティング会社の後付けの分析結果とが異なっていたことは、有名な話です。


しかし、戦略なくして戦術なしとは言われていますが、この種のビジネス本を手にした人には、著者の著名度や名声等により、これを正として捉え、本来検討すべきこと(戦術への落とし込みや、さらなる落とし込み)が必要であることを理解しないまま、ビジネス本に書いてある内容をそのまま採用し、「戦略、戦略」といって戦術を検討せずに、戦略あって戦術なしといった状況になっていることに気づいていない方がおられます。

このように、ビジネス本の多くは、表面的な部分を取り上げたものが多く、実務レベルにまで落とし込んだものではないということを意識して利用する必要があると感じています。
すなわち、戦略から戦術に落とし込むこと(ビジネスを成功に導くための戦術(武器となる商品、武器となる商品をどのように使うか)の検討)は、難しいものであり、それぞれの状況によって、千差万別です。
したがって、ビジネス本には、戦術に関する落とし込みについて、これといったことが書かれておらず、この先にまだ検討すべきことがあるという意識をもって活用すべきではないでしょうか。

これは、戦略に関するビジネス本に限らず、マーケティング等についてのビジネス本も同じことがいえると思います。

あるメーカーでの話ですが、商品の企画を担当する管理職が新入社員を対象にマーケティングについて講師を務めたそうです。
その講師は、マーケティングとは何か等について話を進めた上で、最終的に、マーケティングの研究の第一人者である「ピーター・ドラッガー」は、「マーケティングができていれば、営業なんていらない!」と言っています。「だから当社はマーケティングに力を入れている!」と営業職の進入社員に言ったそうです。
新人営業マンは、それを聞いて、「じゃ、俺らは何のために営業職で採用されたんだ!」
と…
この講師(管理職)は、勉強熱心な方のようで、かなりのビジネス本を読まれていたようですが、
「ピーター・ドラッガー」が提唱している理論は、究極論であり、理想論であると捉えることなく、それが正であるとして、新人社員に伝えたようです。
この方の経歴を聞くと、技術開発や営業の経験はなく、企画職につかれたらしく、その勉強熱心さが裏目にでたのではと感じました。
また、カリスマ経営者のビジネス本についても、同じように思います。
カリスマ経営者は、自身の置かれた環境・状況で、このようにしたことで、このような成果が得られたと言われているのに、例えば、カリスマ経営者の会社では社員に掃除をさせているらしい。当社も掃除を始めますといった経営者が居られたと聞いたことがあります。

「掃除をさせている?」
カリスマ経営者は、掃除を強要しているのではなく、自分なりに考え、試行錯誤された結果、その会社では社員自ら率先して掃除をするようになっているのに。

カリスマ経営者と言われる方は、自らの会社を創業するにあたり、ヒトとの関係や、社会との関係で、自らおかれた環境を踏まえ、自分なりに考え、試行錯誤を繰り返されおり、その結果として成果に結びつけられています。
にもかかわらず、ビジネス本にそのようにかいてあったのでと、同じことをしようとして、結果的に、組織に悪影響を与え、例えば、上記のように掃除を強要した(しかも、時間外に)結果、社員が辞めていったという話を聞いたことがあります。すなわち、人それぞれ、ストーリーが違う(おかれた環境が違う、やってきたこと、苦労してきたことが違う)ことに気づかず(意識をむけず)、短絡的に取り込もう(真似をしよう)とする人も少なくありません。

自分が思い悩み、追い込まれれば、何かにすがりたいという気持ちは、よくわかりますが、
ビジネス本の情報をそのまま使うのではなく、参考にして自分なりの思考を巡らせる必要があるのではないでしょうか。

そんなことは、「判っている!」「わかっていなかったのは、お前だけだ!」と思われるかもしれませんが、私自身、ビジネス本をそのまま活用することで失敗し、それによって気付かされたことも多々あり、また、私の周囲にも、ビジネス本信者とも言える方が多数おられることから、今回のテーマについて書いてみました。

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