私が社会人になったバブル崩壊前は、当然に景気が良く、黙っていても商品が売れていました。
そのため、商品の製造・販売だけで十分な収益が得られるため、知財を経営に活かすことを考える企業は、数えるほどしかありませんでした。

しかし、バブル経済崩壊後は、商品が売れない時代になり、どのように収益を上げようかと考えた大手企業は、継続的なライセンス収入や損害賠償金の獲得を視野に入れ、知財の権利化を積極的に行うようになりました。
その結果、経済界では不況と言われつつも、知財業界においては、知財バブルと言われる時代になりました。
しかし、そのような時代は長く続くはずもありません。
出願件数がじわじわと減っていくと、特許庁や、関係団体、企業の支援機関などでは、知財の活用を積極的にPRし始めました。
このころから、「知財戦略」というキーワードを頻繁に見かけるようになりました。
また、知財スキル標準 version2.0(特許庁,2017 年 4 月)において、「IPランドスケープ」という用語が定義され、経営に対するIPランドスケープの必要性が前面に押し出されています。
「知財戦略」及び「IPランドスケープ」というキーワードは、知財業界から発信されたものです。
この「知財戦略」及び「IPランドスケープ」について、
厳密な定義は専門書等でご確認いただければと思いますが、
簡単に説明すると、
両者は、特許等の知財を経営に活用するという点では共通しますが、
「知財戦略」は、特許などの権利を取得してビジネスに活用するという意味に使われ、
「IPランドスケープ」は、知財情報に基づく分析結果をビジネスに活用するという意味で使われています。

このような背景から、企業の知財関係者は、社内に対して知財戦略やIPランドスケープの重要性を訴えることが多くなっているようです。
企業にとって、知財戦略やIPランドスケープは有効なものであり、
企業の知財関係者が社内に対して推進しようとすることは、非常に良いことです。

しかし、専門家によるセミナーや教科書で説明されている「知財戦略」や「IPランドスケープ」
は、理想的なやり方ではありますが、経営資源が潤沢にある大企業だからこそできるやり方が殆どです。
にも拘わらず、そのやり方を企業規模に関係なく、テンプレート的に推進しようとされる専門家も少なくありません。

例えば、ある新商品についての特許取得について相談に行くと、
貴社のビジネスにとって重要な新商品であるという理由で、
複数の特許で特許網を構築しましょう、特許や意匠等で包括的に商品を保護しましょう等
というアドバイスがされることがあります。

これは、方法論としては間違いではありませんが、複数の特許を取得するには、イニシャルコストやランニングコスト等で多額の費用が必要となり、経営資源に限りのある小規模事業者や中小企業では、実現できないこともあります。

では、小規模事業者や中小企業では、知財戦略を立案実行できないかといいますと、
私は、多くの企業とお付き合いさせていただき、何千もの発明に関わってきた経験を踏まえますと、そうではないと思っています。
お付き合いさせて頂いた企業で、最小限の知財でもビジネスを保護し、大企業とやりあえる権利を取得した企業や、市場を独占的にされている企業もたくさんおられます。
これらの企業は、権利を取得するという視点ではなく、権利をビジネスで活用するという視点で、権利化に取り組まれており、この取り組みこそが、小規模企業・中小企業にとっての知財戦略の根本とも言えると思います。

権利をビジネスに活用する視点というと、知財関係者のほとんどは、当然にその視点をもって取り組んでいる!と言われると思います。

しかし、現実には、知財の数で勝負しようとされている(知財網があれば大丈夫と思っておられる)企業が少なくなく、結果的にビジネスに活用できていない(商品化等もされていない)権利を複数取得され、莫大な特許料を払うことになって頭を悩まされ、結果的に取得した権利を捨てる(棚卸する)と言われる企業も少なくありません。

小規模企業・中小企業が知財戦略を意識されるのであれば、商品の企画段階から商品化までの情報をどのように使えば自社にとって有効な権利になるのかを意識して、権利を取得すれば、それも立派な知財戦略です。
ビジネス本を鵜呑みにしていませんか?でも書きましたが、表面的な情報をテンプレート的に使用することは、企業規模等によって有効ではないこともあるので、自社の規模等を踏まえた独自の戦略を立てることを意識されてはどうでしょうか。

ここでは具体的な手法については書きませんが、ご興味があればお問合せください。

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