私は、メーカーで色々な商品を企画・開発を経験してきたこともあり、
知財業界でもやっていけると思い、知財業界に入りました。
しかし、現実はそんなにあまいものではありませんでした。

私のデビュー作は、アイデアレベルのものであり、緊急を要しない案件でした。
私としては、一日も早く特許出願(特許庁に提出)しなければという思いで書類を作成し始めましたが、私の師匠のチェックが通過せず、なんと、1件の特許出願の書類が完成するまで「1か月」も要してしまいました。緊急を要しない案件ではありましたが、こんなに時間がかかっていてはと思い、2件目、3件目にチャレンジしたものの、2件目、3件目も書類が完成するまで「1か月近く」かかってしまいました。
3件目が終わり、「自分の考えは甘かった!」、「もう知財業界で生きていけない!」と自分の力のなさを痛烈に感じ、もう知財業界(特許事務所)を辞めようと思ったことを、今でも鮮明に覚えています。

そのころ、色々相談にのってもらっていたベテランの先輩に、「特許の書類を作成するのに、一人前と言われるには、どれぐらいかかりますか?」と聞いたことがあります。
その先輩は、「自分が事務所に入ったころは、1000件書いて一人前って言われたよ」と…

1000件?!
今のペースでは、年間12件、単純に計算すると、90年?!

先輩は、笑いながら「特許の書類はそんなに簡単に書けるようになるものではないし、将来を予測して作成しなけえればならないため、完璧というものはない。奥深いものだから、年数的にベテランと言われる自分でさえ悩んで考え、これで良しとは思ったことはない。一人前なんて自分で言える指標はないし、数を熟して知識・知見を増やすことしかないよ。がんばれ!」と…

その先輩のアドバイスがなければ、とっくに知財業界を辞めていたと思います。
それからは、自分の力ということを考えず、「お客様」から「担当して貰って良かった!」「いい権利が取れた!」といって貰える「書類づくり」をしようと思い、やり続けることになりました。

結果的に、若手や新人を指導・教育する立場になるところまで到達することができました。しかし、
前述のように、先輩が言った「1000件書いて一人前」という言葉は、知財は奥深いということを意味しているのですが、結果的に、私が直接書類を作成した案件数は、僅かに1000件に届かずで、一人前にはなっていません(笑)。

特許の書類(公報)を見れば、記載量の少ないあっさりしたものがたくさんあり、古参の方は、これが良いと言われることがあります。
しかし、現在では、審査基準の改定や判例の関係で、このような書類は、審査や係争に耐えきれないことがあります。そのため、優秀な弁理士や特許技術者が書いたと思われる書類を見ると、ただ単に記載量が多くなっているのではなく、必要なことを記載することで記載量も多くなっている傾向にあります。
すなわち、その時の基準を踏まえた書類にしなければ、時代の潮流から外れたものとなるということです。このようなことから、書類作成が一辺倒できるものではなく、「奥深い」といわれた一つの原因かもしれません。

従って、企業の知財部や知財担当者は、優秀な弁理士や特許技術者のレベル以上(思考レベルや技術的な知識・知見が上回る)になることを意識し、書類に記載された内容が「将来を見据え、必要なことを記載しているかどうか」を見抜ける力を養わなければ、自社にとって有益な権利づくりはできないと思います。

この見抜く力というのも、書類を作成するのと同じで、必ずしも法律の知識量と対応しているものではなく、色々な技術や案件にあたり、数を熟して知識・知見を増やしてこそ強化できると思います。

これは、特許に限った話ではなく、意匠や商標等も同じです。
従って、企業の知財部や知財担当者は、特許事務所から送られてきた書面を表面的に評価・評論する単なる評論家という位置づけではなく、特許事務所から送られてきた書面作成の奥深さを理解し、それを踏まえた対応(弁理士や特許技術者の思考を超える対応)をとれる組織・人材になることを意識すべきと思います。
また、特許事務所に頼らず、自社で対応されている企業については、知財関連の書類は、単に見本をまねてできる作成できるレベルのものではないことを理解し、自社の知財対応レベルを高めるか、損して徳取れということで、親身になってくれる優秀な事務所(弁理士)を見つけることもご一考されてもよいのではないでしょうか。

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