特許等の知的財産権は、独占排他権であり、権利の範囲内において、業として商品の製造・販売等を独占的に行うことができます。

特許等の権利を取得している企業は、市場を独占し、自社が製造・販売すれば、第三者に支払う中間マージンが少なくなって利益率は高まるため、市場で一人勝ちと言えるかもしれません。

しかし、中小メーカーは、大企業のような生産能力はありません。すなわち、中小メーカーは、大企業のように、大規模な設備や、一次、二次…下請け業者(外注)をもっていないことが少なくありません。
また、中小メーカーでは、既存の商品を取り扱っている業界に特化していることが多く、その他の業界の販売チャネルを持っていないことも少なくありません。

そのため、新商品の市場規模が本来であれば100あるにも関わらず、自社の製造能力や販売力を最大にしたとしても、市場規模100の全てに商品を供給できなくなることも少なくありません。

すなわち、「独占」を意識しすぎる結果、市場の取りこぼしを生じさせてしまうことも少なくありません。このような場合の対策としては、外注での製造・販売もありますが、外注の製造・販売の管理義務が生じ、別の負担が増えてしまいます。また、これまで取引のある外注先は、自社の商品の製造・販売を対応しているところが多く、結果的に、自社と同じように、その他の業界の販売チャンネルを持っていない場合が殆どではないでしょうか。

そうすると、新たな外注先や商品の卸先を探す必要があります。運よく見つかれば、それでも良いかもしれませんが、他社においても、多くの利益を得ようとするため、自社にとっては、管理負担が増えるにも関わらず、製造原価や販売にかかる中間マージンが増え、あまりうま味のない話になる場合もあります。

このような自社の負担を増やさずに、商品を市場に供給させる方法として、特許出願や特許権に基づく実施許諾があります。
特許の場合、この実施許諾には、専用実施権、通常実施権、仮専用実施権、仮通常実施権があります。
専用実施権及び仮専用実施権においては、定めた範囲で、第三者に独占的な実施(製造・販売)を許諾するもので、これに対し、通常実施権及び仮通常実施権においては、定めた範囲で、非独占的な実施(製造・販売)を許諾するものです。

専用実施権及び仮専用実施権においては、定めた範囲において、特許権者であっても実施(商品の製造・販売等)ができなくなるため、この点を踏まえて許諾する必要があります。ただ、専用実施権及び仮専用実施権を許諾する第三者(他社)の製造能力や販売力が低いと、限られた範囲でしか商品が供給されなくなり、本末転倒といった結果になります。

これに対し、通常実施権及び仮通常実施権においては、非独占的な実施(製造・販売)を許諾するものであるため、自社での実施も確保でき、さらに別の企業にも、実施を許諾することもできます。
従って、自社の製造能力や販売力(販売チャネル)に問題がある(市場全体に商品を供給できない)場合には、得意とする業界の異なる企業に、通常実施権を許諾すれば、一つの業界だけでなく、多くの業界に商品を供給できるようにもなります。

実施許諾をした場合、特許権者は、ロイヤルティ収入を得ることができます。このロイヤルティ収入は、自社が直接製造販売するときの利益よりも格段に少なくなりますが、自社単独では、到底手の回らない市場にも商品が行き渡り、また、許諾を受けた他社の責任で商品の製造・販売がされるため、市場拡大に伴うリスクも分散されます。
従って、新規な市場を作り出すような新商品を企画開発した場合には、他社の力を借りて収益を上げることも一案です。

ただ、このような実施許諾をするには、第三者に「その権利を使わせて欲しい!、その商品の製造・販売をしたい!」といって貰う必要があります。
すなわち、その権利の内容が、商品化することで市場で売れるといった魅力のあるものでなければいけません。
以前にも書きましたが、特許や実用新案の価値は、商品の販売(売上)と連動します、
従って、商品に関するマーケティングと権利づくりをリンクさせなければなりません。

乱発的に権利取得をすることのできない中小・零細メーカーは、単発(決め打ち)で権利化をすることが多いため、中小・零細メーカーは、その単発の権利の価値を如何に高めるかを検討すべきです。
すなわち、中小・零細メーカーだからこそ、ただ単に出願する(事務所にお任せする)のではなく、ライセンスの話を持ち込んだ先の第三者に「やらせて欲しい!」といって貰える魅力のある権利づくり(価値の高まる権利づくり)をする必要があります。
従って、前にも書きましたが、このような権利づくりをするには、まずは商品づくりを優先すべきです。すなわち、商品に関するマーケティングの実施を十分に行い、その結果を踏まえた権利づくりをする必要があります。

なお、自社で商品化せずに、他社にライセンス供与することを目的とする場合、権利の対象となったアイデアが商品となったときに、市場に受け入れられるかどうかで、第三者が魅力を感じるかどうかを判断するため、この場合も同様のプロセスを踏むことが必要です。


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